6巻はちょっと紋章関係ない連作短編的なそれ、7巻は何を言ってもネタバレになりそうな勢いでの第一部完。
話の焦点も、ジェス君のこれまでとこれから、みたいなところがあり。もしかしたらこれまでの話の主人公は勇者ジェスだったのかもしれない。
続々と登場する旧世界のものたち
白井沙穂、クーガーおじさん、ショーペンハウアー、マリーチ…完全に伝説となった時代を生きていた人たちが何食わぬ顔で闊歩しているこれ。
「ミスマルカ興国物語」は、これだけでひとつの作品ではあるんですが、これらの人物が出てきたところは「お・り・が・み」などの時代の続きという雰囲気になっているんですよね。
沙穂に「長谷部翔希のほうが強い」といわれても、「あの居たかどうかもわからない伝説の?」みたいな反応になるのはまあそらそうじゃないですか。でもたぶん彼女にとっては普通の話であってね。
実をいうとこのへんから、他の作品を読んでおかないとみたいなふうに思ったところに電子書籍が出てきたりしてずるずると全部読むハメに。完全に図られている。
勇者ジェスのこれまでとこれから
災厄で滅んでしまった国の生き残りで、魔物と無法の跳梁跋扈する西域で伝説を残し、悪魔のような天使との契約でその力を得る。
一番斜に構えていて一番勇者らしくない彼が一番の勇者だった。
それは結果としてそうなっているだけというところでもあり、ジェス自身ははじめから一貫しているんですけれどもね。魔王を殺す。
その決意が変わらずとも状況は変わっていくわけで、8巻以降はどこを目指していくのか。
勇者の話は正義の話でもあり、相変わらずこの作者、そういうところをひっくり返していくのが大好きである。
ただ勇者たちにはマヒロと違って、それを成すための力が備わっているんですよね。SSランクのランデルディーとかその典型例みたいなもので。
圧倒的な力を持って圧倒的な理不尽を圧倒的な正義で蹂躙するのは昨今の流行でもあり、それはそれで読んでいて楽しくないわけがない、むしろ物語としてはそちらが正道なのかもしれないのですが、この物語には「王族」という権威しかない(その権威も皆がひれ伏すようなそれではなく、弱小国と侮られるようなそれである)マヒロ王子がそれを口先だけでやってのけている。だから逆に一枚落ちる。
勇者達はその力を遺憾なく発揮して正義を貫くのですが、それは結局強い者が勝ったという格好でしかないのですよね。
まあ、それを言ったら。それが必然でもあったのですけど。
並のちゃぶ台の返し方ではなかった
まあ、第一部完であり、ここまでの総決算でもあり、物語の中にところどころ見えていた黒いものが一気に表に出たところでもあり。
7巻は完全にシリアスで一気に駆け抜けた感なうえに駆け抜け終わった後のアフターがマジかよと思ったらさらにマジかよみたいなのが延々連続して次巻に続く。
そりゃーアレですよ、視姦魔人さんも腹抱えて笑いますよ。
これまた状況的にマヒロがミスマルカ王に語ったようなそれと一致するようなことになっていたり、どこからどこまでが偶然でどこからどこまでが策略なのか判別がつかない。
どこまでが正気でどこまでが踊らされているのかもわからない。この物語が始まった、最初の状況の焼き直しでもある。
そんな戦記ものっぽい展開を経て次回からはまた舞台が変わります。
この先の展開とともに、これだけ旧世界との絡みが多くなってくると、「西域」や「魔王」というのもきっと関係してくるんだろうなあという気持ちになってくる。