…などと供述する感想はタイトルくらいにしかかけない。読む順番が「本編→小冊子」になるのだから最初にコレがきても仕方ないよね? 著者当人も「本編から隔離したことで封印を解いた」くらい書いてる内容なので仕方ないね。
本編は…不穏で衝撃的、かつメインで動いていた二人がいなくなったことで周りがより積極的に動き始めるラストからどうなるかと思っていたけど意外となんかいつものノリであれっと思ったり安心したり。八一とあいがここまで完全に別行動になるのは本編初だと思いはするけど決断の早い二人が動いた感じです。
しかし読み始めて出足から距離が近い。今回はそういう話。
仕事を絡めて言い訳を用意して逃げ道をなくしつつ囲っていく供御飯さんと真正面から財力で殴って自分色に染めてく天ちゃんに同時に詰められてく竜王って構図になってて見てるこっちは面白い…これが二面打ちかただ流されてるだけではないのか…でも最後の最後に流されなかったのはメンタル強いな八一って思いました。本当にロリコンなのかのもしれないあいつ。供御飯さんは終盤まで行ってしまったけど天ちゃんはまだ序盤っぽいから次巻が本番かもしれないですね。
また本編で「棋書の執筆」をメインに当ててるのも珍しく面白かった。将棋の専門書…みたいなものって理解で良いんだろうか。担当編集も専門家(さらにそのなかでもトップクラス)なわけで捗るだろうなこれ…
将棋のような勝負事を書いた作品だと、どうしても「勝負の強さ」にフォーカスが当たることが多いように思いますが、今回はその強さとは別の仕事や生き方、価値観にもスポットライトが当たって噛み合っているところがほんと良かった。純粋な将棋の強さとは別の指標があるような。
今回だと「考えをまとめてアウトプットする能力」みたいなところ。八一だけでは絶対ムリだったうなってところがまたね。知識をまとめて形にするのは思ったより大変で…専門的なものとまで言うと大仰だけど、たとえば趣味でも好きなものでも説明したり文にまとめたりするのってやっぱりすんなりとはいかないんですよ。
一方であいちゃんのほうは、「女流棋士」としての生き方みたいなところにフォーカスがあたっててこっちもまた良い。あいちゃんサイドもまた、純粋な強さだけの話ではなくて、仕事としての女流棋士とか、また女性特有の体調の話とかが女流棋士の視点から語られてるのも面白かったです。こちらも「将棋の強さ」だけではない、全てひっくるめた生き様の話でもあって。「全部手に入れる」って決めた人は強いですね。でも最後はなかなかダイナミックな対戦になってしまった…体調不良でピンチと思ったら更に上を行く体調不良とは…その大変さは俺にはわからないからなんともいえない…
で、ザッピングしながら進んできた八一とあいちゃんのストーリーがぶつかるのが第五譜の章。ここまで本編を読んできた人には分かる、タイトル扉絵の時点ですでに熱い予感しかしない。供御飯さんが八一の影響から本来の自分の打ち筋を解放していくようなところも、「名人は自分の打ち筋や考えを広めることで結果的に自分有利な展開になっていた」と語っていた布石の回収も、八一から離れることでより客観的に明らかにされたあいの暴力的な異常性も全部混ざって全部熱い。それに「勝負事が時の運」ってことを体現してるような作品でもあるし、1戦単位ではどう転ぶのかわからない。
第五譜から最後までは…勝負後の展開も含めて一気に読み切る感じです…読み終わってみたらすごく恋愛してましたな今回。本文中のテーマでもあった「(ソフトが導き出して)詰みだと思ったところは実は詰んでいない」って話に引っ掛けているような感じも受けて。
そして15巻のラストも本文の意を組んだようなイラストで締める姉弟子、この作品本当に挿絵までセットでひとつになっているの素晴らしい。14巻が逆の意味でイラストのパワーを使ってたからそれと対比しちゃうところある。
物語としてはまだまだ続きそうな16巻目は…どうなるのかなあ。感想戦と呼ばれる次回予告でまた爆弾を落としていくスタイルだし。それはいわゆる死亡フラグなんじゃがどう…どうするんじゃ…?
それからね。今巻は女流棋士:鹿路庭たまよんがメインだったのもよかったよ。一見ゆるふわで頭の切れる毒舌系女子大生だもん。よくないわけがない。「りゅうおうのおしごと!」って群像劇っぽいところがあって、登場人物を切り替えることで八一やあいちゃんでは見えないところを視点にして話せるから強い。あいちゃんがめっちゃ共感してたのは草。ある意味で5・6歳程度の年の差は、大人になったら大したことでもなくなるモデルケースでもあるのかもしれないからな。