C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
すずさんのありゃーっぽさが光りつつもじんわりくる、前評判に違わぬいい映画でした。
すずさんと共に見る、広島・呉の記憶
第二次世界大戦中~末期の広島・呉を、一人の女性の視点からすごく丁寧に映像化した映画。
で、戦中の暮らしを題材にしているのですが、明るすぎる暗すぎずというか、「その時代に暮らしていた人」の想いや感情、あたりまえだったことなんかがメインで、過剰にドラマティックな演出や展開はなくただただ普通に過ぎていく。
主人公のすずさんが、まあ、なんていうか、「ありゃー」って感じの人なんで何があってもほっこりするしかないよねっていうのが声と動きがついてすごく「ありゃー」って感じだわこれ。ありゃー。
あー、うん、やっぱてんねんやったなすずさん…
また生活感の書き込みもだいぶ細かい。配給で足らずに地道に菜っ葉を摘んでいくとか。呉に寄港している軍艦とか水兵さん達とか闇市の様子とか。
空襲に応戦してるときに砲撃の破片が町中に飛んできたりするところとか、ああそうだよな何も落ちてこないはずないよなあって。
砲撃の色がカラフルなのもその理由も今まで知らなかったりした。すげえなあ…
ストーリーとかについては原作の漫画から大きく外れることはなく、最後まで収めていたのでよかったです。
(一部省略されたり追加変更されてたりしていましたが時間もあるので致し方ないですね。でも、「省略はされたけど無かったことにはされてない」感じはあるので、原作を読んでみるとさらに趣があるかもしれない。逆に追加されてたっぽいところは、原作側で省略されたところなんだろうか。リンさんと座敷童とか)
あたりまえのことがあたりまえに描かれている現実感
そういう日常が普通に過ぎていって、ドラマティックな展開は作られていないけどドラマはある。
もちろんフィクションなので作られたストーリーなんですが、すずさん始めそれぞれの人達の気持ちとか行動とか言葉とか、「ああそういうふうだったんだな」っていう妙な現実感があって。そういうものが重なって作られるストーリーが、見ているときはあっさりしてたんだけど、こう、思い返すとひとつひとつがじんとくるといいますか。
そして日付は間違いなく昭和20年の8月に向かっているわけですよ。
普段の生活感を大切に描きつつ、日付が進むにつれその生活の中に戦争の影が占める割合も大きくなっていって、その視点は徹底してすずさん視点なわけだから、それこそすずさんの記憶の片隅にいるような感じになっているところからの後半。
まあ、空襲とか原爆投下とかは史実なのでネタバレもなにもないんですけど率直に感じた感想としてはあいつらマジで街を焼きやがった…! って感じが半端なかったですね…
広島のほうでピカっと光るやつとかも、呉から見えてたのが「なんじゃろねえ?」って感じだったのがすごい雲が上がってるのが見えてきて「なんだかわからんがえらいことになっとるぞ」感がすごうて。
ただ不思議と見ていて、映像そのものから感じるつらみとかはあまりなくて、そこがでも、もし実際に当事者だったらそんな感じなんだろうか…みたいなところでもあり。
そういう気持ちと「その後」を史実として知っている知識を持った自分の視点とが合わさって、後半はほんと見ていて「ア"…ア"…ア"…」って感じ。
後半と比べると、それまでの毎日がどれだけ平凡で尊かったのかということもよくわかります。
その後に続いていく空気感
これは原作漫画読んだときも思ったのですけれど。
物語って終わるときはいったん区切りがついたりするわけじゃないですか。やっぱり。
本作もエンドロールという終わりを迎えるまでに、ひとつ区切りがつくわけですが、それでもそこから先、すずさん達はきっと生きていっているんだろうという印象がずっと消えないのですよね。
昭和19年~20年あたりをメインに、すずさんの人生をすこしだけ覗いていたような感じ。
そして、その後どうなっているんだろう…というのはもちろん気にはなりますけど。きっと元気でやってるだろうし「お達者で」みたいな感じで一先ず見終ったような、なんとも不思議な気持ちになっています。
まあ、どんな時代になっても「ありゃー」って顔してるんやろうなあって感じだけはありますけど。ありゃーって。
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原作を読んだ感想も書いています。よろしければこちらも是非。
監督インタビュー記事。良インタビューなので、映画を見終った方も、これから見る方も。
「BLACK LAGOON」の方なんやな…あれも半端ない。双子の殺し屋の最期が最高に好き。