世界を襲ったある巨大な事件。それによって変容した世界。人ならざる存在となった少女と、姉を救う方法を探してエージェントとなった少年。
近未来感とダークファンタジー感が混ざりつつ、謎が謎を呼ぶ事件を追っていくところが面白い。
空間断裂実験後の世界
アリス財団という、世界最大規模の科学技術を持っていた集団によって行われた空間断裂実験。空間と空間を繋げる、つまりワープ実験なのですがこれが派手に失敗。島がまるごと消えるわ世界各地で異変が起こり始めるわ…その各地に生まれた異変は「痕(トレース)」と呼ばれ、実験に巻き込まれ、存在を異世界に飛ばされてしまったひとたちは「エトランゼ」と呼ばれた。
エージェントである了次は、その異界がらみの事件を解決することを仕事としていて、パートナーのエトランゼ、ルートとともに今回の事件の舞台である、金港という街にやってきたわけで。
この金港で発生しているのは、占い師の連続誘拐事件。金港での異変は「街の人が未来視の能力を獲得した」というもので、占い師を名乗る人が街中にいる中での誘拐事件というそれ。
事件的に見れば了次とルートがゲストで、主役はこの街に住む領主李峰や宿屋の娘ミァン、議会の外務長グェンといった地元の人たち。占い師の中でも伝説級の「稀世の占い師」を巡って、様々な思いが交差しつつも謎を解きほぐして集結に向かっていきます。
エトランゼという存在
空間断裂実験で生まれた「エトランゼ」という存在も、元は…というか今でも人間の姿形をしているけれど、体が異界に飛ばされているという状態で、いわば幽霊のような感じ。
ルートやコルクマンもそれにあたり、彼ら彼女らがなぜそこに囚われ続けているのか、戻ることはできるのか…というのは根底にある謎でもあります。
エトランゼとなってしまった人達にも二種類いて、コルクマンはアリス財団の実験のために集められていた囚人のなれの果て、ルートはその実験のあった島にある「エミル村」にたまたま住んでいたため巻き添えを食った格好で、後者のエトランゼはなぜか「エミル村」という単語に反応し、戻りたいと願っているという謎もあります。
そこにルートらが戻ったら何が起こるのか…引っかかりつつもちょっと横においておくこの感じ。
一方で、了次は「痕」が発生したときにその場に居合わせてしまい、姉が昏睡状態に。その姉を救う方法を探すためにルートと組んで異界の事件に関わり続けています。
自分の目的を追いつつも、お互いのために協力を惜しまない。そういう信頼関係で走り抜けていくバディものでもありルートがなんか妙に有能でほっこりするような。
未来視という異能
そこで今回のテーマ、未来視。
普通ならオカルトじみた話ですが…そういう世界のバックグラウンドがあるから話は別で、俄然信憑性は高まりますね。
サイバネあり実用化された眼鏡形電子端末(ARグラスのようなものかな?)ありの近未来で異能まで肯定されているうえに妙にじっとりとした闇を感じる全体的に。すばらしい。
「未来視」といえば普通に出てきたらスペシャルな能力なんですが、あんまりにも見える人が多すぎてなのかなんかちょっとよくあたる占い程度の扱いになってるのほんとじわじわ。
金港がもともと占いの街で、さらにその未来視をネタに観光地化しているからさもありなんという感じでもあるのですが、あの魔眼がいっぱい…みたいな気持ちにはなります。
でも「稀世の占い師」はその中でも本当にスペシャルな存在で、それを巡る事件と謎。多彩な設定と世界観を味わいつつその展開を楽しんでいくような一冊でした。