前巻の展開もまさかと思ったけれど、今巻はそれとは別の意味でまさかと思いました。そしてそれでかなり硬度高いと思った。
※ここから先には前巻までのネタバレがあります。シリーズ物なのでご容赦ください。
史上初の技術革新と史上最悪のルール違反
ストライクフォールとして史上初(むしろ出来ることが想定外)な技術革新と、同時に最悪のルール違反を同時にやってしまった雄星。
今巻は冒頭から、その後始末ですね。良い方…はほとんどなく。
ルール違反のほうは周りが気づけよって思わなくもないんですが、すぐコクピットに入ってしまう競技だから仕方ないんだろうか。
ただ、この雄星のルール違反、そのまま秘密にして物語進むかなって思っていたのですが、きちんと公表、謝罪、協議した上で雄星の処分とプロ入りになったことは驚きました。
もし実在するスポーツで、同じようなことが起こったらきっと同様のプロセスが踏まれるはずだろうと思いますから、ある意味正しい。やらかした選手が選手として戻れるか、は損得計算によるだろうし、雄星の適正や状況からそれが測られてるあたりも硬度高い。
かりそめの栄光、て別にそれを惜しんでいるわけではないけど、雄星の素直な態度も含めて、社会的に話がついたのが意外でしたし、よいところだとも思いました。
才能があることが悔しくなる展開が熱い
雄星が作ったチル・ウェポンは慣性制御が可能になるもので、それだけでストライクフォールの、いやその他もろもろ含めて歴史の転換期になるような代物でした。
それを扱うための才能がこれからには必要、いやその才能こそが勝敗を決めるだろうとまで言われ。雄星にはそれが備わっていたわけで。
ある意味、このチル・ウェポンを扱えることによって現状向かうところ敵なしになるのですが…これが逆に、今の雄星にはこれしか取り柄がない、ことがはっきりと浮き彫りにしてくるのですよね。
いろいろな大人の事情で、シルバーハンズの二軍からスタートすることができるようになった雄星だけど、その実力は全然足りていないから…そしてそれを「才能」だけで逆転できる、となっても素直に喜べない。このくすぶっているが抜け出せないところもスポ根として熱い。(他チームに技術的に追いつかれるのは時間の問題でもあるので、もしこれで喜んでいるようであれば早晩追い落とされることも確実なのですが)
また同時に、実力が全然足りていないけれど、勝敗だけで全てが決まる勝負の世界の空気感が嬉しいと感じて変にしょげていたりしないところも性格がまっすぐで良いのですが。脳筋ともいう。
…脳筋といえばどうしてラノベの主人公はこう鈍感…いや鈍感ではなく奥手のほうかこれは…爆ぜろ…
あとアデーレ嬢。「キラーの国では舐められた瞬間正当防衛が成立するから仕方ないね」で乱闘始まるのは名言。マジ蛮族。
戦争とスポーツの境界
なにかが進歩していくと、当然その土俵に上がるためのハードルも高くなる。上がれるだけの用意ができるものとできないもの、つまり格差が広がっていく。
これはロボットチームバトルスポーツのラノベですが、使われている技術は軍事技術からの転用、また軍事技術にフィードバックされるものでもあり。
そういったスポーツ外での抗争に絡んでいくところも出てきて、「競技」として臨んでいる雄星たちからすると辛いことなのだろうなと思うところも。
しかし、あくまでスポーツ、競技者としてストライクフォールに向きあっていく雄星たちの心持ちが、未来を明るいものにできるのかもしれない。