1991年に発生した聖杯戦争の顛末を、断片的に観測してきたこのシリーズもついに最終巻。
これをもって1991年は収束し。撒かれた種火は8年後に芽吹くことになるのでしょう。
※ここから先にはネタバレがあります。Fateシリーズはその話の展開、構成すべてに驚きと仕掛けが込められているようなもので、どうあっても感想というとネタバレになってしまうところがあるかもしれません。(おいしいところはなるべく残しておきたいとは思っていますが) 未読の方、ネタバレが気になる方はここで引き返し、迷わず本作を手に取ることおすすめします。
愛歌の勝利が決まった聖杯戦争、しかし儀式は終わらない
7人7騎のマスターとサーヴァントが殺し合い、聖杯にその魂を捧げる聖杯戦争。
その本質は相手を倒すことではなく、それによって「聖杯」を完成させる儀式でした。
ここまででアーチャー、ライダー、バーサーカー、ランサーの4騎を打ち倒し、アサシン、キャスターを配下に収めた愛歌に敵対するものはなく。
完全勝利といってもよい状況にはなっています。
…ですが、これで愛歌が聖杯を手にしても、彼女の目的は叶わないのですよね…
その目的、「セイバーの願いを叶える」ためには、「セイバーの代わり」が必要になる…
さらにはその「セイバーの願い」、「自分の国を救いたい」と願うそれはきっと王として正しく高潔で、でも届かないことを本人も分かっている類のものなんだと思います。
だがそれを、願いの言葉通りに叶えようとするならどうすることになるのか…方法と実現する力を得ようとする根源の姫が、願いの真意とは真逆の方向に回っているが結果だけは一致するようなこのおぞましさ、話の通じなさ、そして悪意のなさはやはり震えます。恋する乙女は盲目過ぎでしょ…
その盲目さ加減も、まあ愛歌は完全につよいサイコさんなんですが、成り立ちとしては逆といいますか。
からっぽだった愛歌が手にした人間らしさがセイバーへの恋心で、彼しか見えていない、ではなく彼しかない、のかもしれません。
まったく最後まで純真無垢なヒロインでしたね! ある意味ね!
同陣営に残った最後の3騎、アサシン、キャスター、そしてセイバー
そして同陣営として残ってしまった最後の3騎。いや7騎中3騎って、まだ半分といってもいい残り具合なのですが…
だがアサシンとキャスターは、自らの願いよりも「主のために」聖杯を起動させる協力を惜しみません。
当然、最後はどうなるかまで分かった上で。
聖杯戦争の儀式からすると、「(一時的な共闘ではなく)サーヴァントが他のサーヴァントのために協力する」ことがかなり異常な事態ですね。もう誰も彼もが正気でない。静謐ちゃんが闇抱えすぎててほんとかわいい。
…タツミはほんと、順当に一人で巻き込まれた結果の士郎って感じだなあ…どこで差が付いたのか…環境の違いか…
そして1991年の事件は幕を閉じる
決着はあっさりと。ただ拍子抜けするほどあっさりしすぎていて、これ、最後までかみ合っていないところがすごく悲しい話なのではないかって思うところまである。
セイバーは全体通して影が薄くて、愛歌の無双っぷりとサイコっぷりが強調されてきたような物語でしたけど。
本当に人でなしだったのは誰だったのか。やり方も目的も空回っていたけど、気持ちだけは本物だった(本物の気持ちが恋心しかなかった)と思うのですの愛歌は。
そりゃ「王は人の心がわからない」とかディスられますよ…
愛歌がもう少し、人間らしさを獲得できていたら、ここまで空回りをしなくても済んだのか。セイバーがもう少し、自分に向けられた好意にきちんと向き合っていればよかったのか。
あるいはいっそ、セイバーが自分の願いに打算的であれば、世界が滅んでも二人は幸せだったのか。
迎えた結末はそして、1999年へと繋がっていくことになります。
「聖杯」の本当の意味、取り込まれたサーヴァントたち、残された爪痕と変わらず回ってる根源の姫。
もうこの時点で「聖杯戦争」の意味が変わってしまっているところまであり、もし続きがあるのであれば大変楽しみなところなのですが…
ひとまず、愛歌が愛歌として生まれた前日譚はここまでとのことで。
といいますかですね意味深な後書きの解説といい蒼銀勢はすでにさらっとFGOサーヴァントに入ってるあたりといいもうこれPrototypeはSN書く前の没作ってレベルじゃ済まなくなってきてますよね明らかに。ですよね?