(C)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
この高校時代のきれいな絶望感と救いとすれ違いと人と人とのつながりが最後に流れる主題歌「恋をしたのは」までセットでもうほんと最高。
かつて悪ガキだった少年と、いじめられていた少女
まず、本作品の主人公である石田将也。将也はおとなしい、というよりどこかおどおどしている雰囲気をもった高校生なんですが、彼がそうなっていることにもうっすらと理由があって、まだ小学生だった頃のやらかしが根っこにあるのですよね。
小学生の悪ガキだった頃に、転校してきた西宮硝子をからかって、それが(周りの状況などもあって)どんどんエスカレートした挙げ句の結末を迎えて、そしてだんだんと心が沈んでいくけれど、ふさぎ込んで引きこもるほどの重傷でもない…というようなつらさ。
硝子はろう者、つまり耳が聞こえない人で、悪ガキからしたら格好のいじめ対象だった、というところだけではなく。耳が聞こえないことによって周囲の子どもに負担を掛けざるを得ないというところが転じて、周りの子ども達からの反発が嫌がらせという形になったり、硝子自身のおとなしく優しい態度もまたそれらをこじれさせていく(というかああいう状態になったら硝子自身がどう振る舞おうとこじれるとは思う)っていうのが京アニクオリティの第三者視点で丁寧に描かれていってつらみしかない。
この「第三者視点」感覚っていうのがすごく不思議な感じになるんですよ。子どもの頃にいじめられてる系エピソードって、だいたいヒロインが泣かされてて主人公に助けられて惚れる原因になるみたいな、気持ちが動く主観的なそれが多いと思うんですが、なんというか淡々とシミュレーションしていっている感じ。それでいて、いやだからこそつらい。
だって将也たちが全面的に悪いかっていったら…いや悪いんだけどさ…っていう、このもやっとした歯切れの悪さがね。結果的にエスカレートして、冗談じゃ済まないレベルになって、それが将也に返ってくるさまは因果応報としか言えないけど。
植野さんとか川井さんとかも最初から敵意や悪気があったわけでもなくて、硝子のことを気に掛けたりアシストしてあげたりしているわけで。
島田はちょっとわからんが。わからんけど多分に将也目線なところもあるからなあ。
そして硝子は転校していってしまって、離ればなれになったまま将也は高校生になる。そこからまた硝子と再開して、話をして、時間が動き出していく感じはすごく青春でもある。
派手さがないだけに際立つ演出
全体の雰囲気的には、基本的に結構あっさりというかしっとりというか、地味めかつ丁寧に描かれているように思うのですが、だから逆に派手な演出が入るとすごく印象に残ってくる。
そういうところは当然そんなに多くない、数えるほどのものだけど、それだけに強い感じを受けます。
それも、そこだけじゃなくて全体的に丁寧に作られているから…というのがもちろんあって、どれだけの手間がって考えるともうこれすごいですな…
作品のテーマ上、ところどころに手話が入るのですけど。その動きも自然で、かつ特に補足が(字幕とかで)入るわけでもないのだけど雰囲気は伝わってくるという。
手話が分かるとまた違った見方になるんでしょうね…
硝子は作品の中で「意図を伝えること、受け取ること」に明確なハンデのある子で、それを読み取ってやれないもどかしたみたいなものも一緒に感じます。発音とかもね。でもあの足ぱたぱたしてるの超かわいいからそれは伝わった。
キャラクターたちの関係性で作られる物語
私が普段に好んでいるのは、結構「目的」がはっきりしたストーリーが多いです。廃校の危機を救うとかそういう。
本作はそういう意味では作品内の「目的」というものがはっきりとしてないように思えて、ただ関わってくる人が増えるとそれに付随してドラマが生まれるという、ある意味この世界の日常的な物語の広がり方をしているような気もします。
「これを目指したい」というはっきりとした意志ではなくて、「こうなったらいいな」みたいなふわっとしたところが少しだけ行動を変えて、それがまた人を引き寄せていくような。
それで最初に高校で引き寄せた永束くん。この作品、彼に救われてるところあると思う…
将也の性格や、こじれてる物語やなんやでともすればひどく暗くなりそうになる話だと思うんですがそこで登場するのがあのモコモコ頭。
あいつほんと良い奴やで…
また、大人は結構さばさばと、子どもらは結構めんどくさい感じで書かれているような気もします。中心は将也ら子ども達の話なので、あんまり出てこないからそう感じるのかもしれないけど。
植野さんとかだいぶこじらせ系でかわいいんだけどこじらせ系だよなあ。つまり猫だ。
川井さんもだいぶなんというかなんというかなふうに捉えてたところあるんだけど(悪い方向に)ピュアだというのが舞台挨拶で「川井さんはシスター」というのでよくわかった気がした。確かに素直っちゃ素直。
素直さ加減でいうと、結絃の懐くか懐かないかみたいなところはまた大変いいですね。
人が増えて、エピソードという思い出も増えて、それが丁寧に折り重なっていくようなところがあるから、派手なアクションとかはないですがしっとりと引き込まれて時間が過ぎていきます。
そして後で思い出してまた泣く。
やっぱりその関係性の中で、将也の気持ちがだんだん変わっていくところとか。花火大会の夜の硝子の行動に繋がったものとか。
将也もそうだったところがあるけど、全部抱え込んでしまいたくなる絶望感という、ある意味青春のそれがな…
でもそういうところも含めて青春で、やっぱりなんか、等身大の優しさがあるな…と思いました。
恋愛もの、というカテゴライズとは違う気がする、もしかしたら純文学的なそれというものなのかもしれないです。
胸を打つ作品が好きな人にはお勧めしたい映画です。
公式サイト
映画情報
原作など
原作コミックス。全7巻。映画の時間に納めるためにだいぶ省略されたり再編されたエピソードがあります。
つまり原作はさらに闇が深い。
しかしそのぶん、それぞれの登場人物たちが掘り下げられています。真柴とか島田とか、映画だとほんとあまり出番なかったのが残念なところ。佐原さんと植野さんについても尺的に難しかったし。
だから映画を好きになった人は是非読んでみて欲しいです。
ファンブックは読み切り版と著者インタビュー収録。
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