元製造業コンサルタントで実業家であり、現参議院議員の山田太郎氏が書かれた本。
「インダストリー4.0」や「IoT(Internet of Things)」というキーワードから、ドイツとアメリカが覇権を巡って抗争している製造の世界で日本の製造業がこの先生きのこるにはという話でした。
先に断っておきますと、本書はビジネス書でありマネジメントの技術指南書でもあると思いました。で、私は今までサーバーやアプリのプログラマを主にやっていた、製造については全く知らない人です。なので批評ではなく、感想、紹介の類になります。
そんなんでどうして読もうと思ったかというのは、仕事のほうで製造にも関係ありそうなところが少しあって、山田太郎氏の名前は表現の自由関係で存じておりましたのでちょっと読んでみようかなというところです。
そういう思いっきり畑違いなんで、BOM(Bills of Material=部品表)の話とか、製造現場の流れの話とかは正直あまりつかめなかったですが…自分なりに読んだところをまとめてみて残しておこうかなという感じです。
なのでいろいろ勘違いがあるかもしれない点はご容赦下さい。という予防線、先に打たせてもらいます(何
「インダストリー4.0」とは
第4次産業革命とも呼ばれるもので、本書では「センシングによって収集したデータをネットワークとクラウドを駆使して処理し、自動的に作動させるサイバー・フィジカル・システムと呼べるもの」という、第3次までの「製造効率の改善」とは全く次元の異なるものであると捉えています。
そこに大きく関わってくるのが「IoT」というもので、これは日本語では「モノのインターネット」といわれ、すべてのモノがネットワークで繋がり、新しいチャンスが生まれてくると言うもの。
このあたりはIPv6とかウェアラブルとかも結構関わってくるところで、すべてのモノにIPが割り当てられ、ネットワークに繋がる構想はずっと以前からありました。それによって出来ることが格段に変わるだろうということです。
そして本書でインダストリー4.0の本質は、「ひと言で言うと、共通インフラとしてのクラウドの活用である」と言っています。日本人がドイツの工場を視察して「たいしたことないな」という感想を述べるのは、着目しているところが工場の業務効率(=第3次産業革命までのお題)だからであって、これから肝心になってくるのはそこではないと。
ドイツvsアメリカの仁義なき争い
ではドイツは何をしようとしているのか。「中小企業も含めた製造プラットフォームの標準化、統一化によるスムーズな製造、人間が機械に指示をし、機械がデータを解析しフィードバックする能動的な現場」というように感じました。プラットフォームというよりプロトコル(手続き、ルール)の一本化なのかもしれません。企業間のやりとりルールや用語の統一など。
そしてこのプラットフォームを世界に広げることで、製造の世界で覇権を握れる。
この動きはアメリカの「インダストリアル・インターネット」という「インターネットに接続されたさまざまな自社製品からビックデータを吸い上げ、顧客へのサービスと次の製品開発にフィードバックし続ける」という米GEが掲げた概念が先にあり、このままでは製造の主導権を握られてしまう、自分たちはただの下請けになってしまうという危機感から国策で進めているようです。
これからの時代、モノづくりの成否を決めるのはコストカットではなくスペック競争という話が先にあります。日本の多機能電化製品みたいな話ではなく、その会社がどれだけワンオフのすごいものを提案できるか、顧客ニーズに合わせてぴったりのものをぴったり提供できるか、という話です。
ドイツはプラットフォームを標準化することで設計やカスタマイズに注力できるような環境を整え、アメリカはビッグデータから吸い上げた情報を用いて設計まで自分たちがやる、という発想なのかなと。Appleの、製造は下請けだけど設計は全部自分たちで、というのがまさにそれを体現しているかもしれません。
…という形でまとめてみたのですけど、この二つの概念、衝突しないことないですか?
というかアメリカが解析してドイツがそれに合わせた製造してきたら最強じゃないですか?
って思っていたらあとがきで、「ドイツと米国が共通の基準を策定することで合意した」とか書いてありました\(^o^)/
日本がこの先生きのこるには
ここまで、未だ効率化の世界にいる日本は全く話に入り込めていません。
どうすれば生き残れるのか。本書では、「スペック・マネジメント」「スループット・マネジメント」「アセット・マネジメント」に注目していくと書いてあります。
「スペック・マネジメント」では、顧客ニーズに合わせた仕様の製品を、適切に作っていく。これは不足していても過分でもいけない。日本の場合は不足することはなかったけど、「機能は最低限でいいから安く」というニーズを認められなかったために、家電はご覧の有様になっている現実があったりします。
だからちゃんと適切なところを見極めていく。スペックを「ベース、オプション、カスタマイズ」の区分に分けて、その組み合わせで要件に合ったものを効率よく作っていこうということです。
「スループット・マネジメント」はその製品を素早く製造するための全体の効率化。入り口が設計だとするならモノが出来たところが出口。そこまでの流れでいろいろな部署、工場が関わってくるわけですが、それらを俯瞰的に眺めて効率を追求していくという流れ。
どこかでもたついているとその部材は在庫となり、在庫はコストになるのでボトルネック無く流しましょうというものなのかなと思います。
それには個別の工場ではなく全体を見ることが重要で、ドイツではそのために工場の建て替えも辞さないといいますが、日本では減価償却内だと特別損失となるから誰かの責任問題に発展するため、それぞれが「カイゼンでがんばろう」みたいな話になって結果アンバランスな流れになる。
最後の「アセット・マネジメント」は、土地や設備などの資産は適切に使い倒せという話で、シャープとAppleが対比的に紹介されています。
シャープは亀山モデルに投資しまくっていたが、同じスペックのものがいつまでも売れるはずはなく、他社が追いついてきたら当然売り上げは下がってきた。でもそれしか生産できないから不良債権と化していった。
一方Appleは機種の投入を極力抑え、画面サイズやボタン配置なども変更しないようにして固定費である製造設備を使い倒した。
アセット・マネジメントとスループット・マネジメントは衝突しているようにも見えますが、スペック・マネジメントと合わせて考えると、「ベース、オプション、カスタマイズでオブジェクト化した設計を製造に回すことで、一度作った設備はずっと使えて、必要なときは部分的に大胆に設備投資できる」という流れが見えるような気がしました。
これによって目指す先は、「インダストリー4.0」プラットフォームに乗っかった輸出の強化、「インダストリアル・インターネット」にも対応した顧客ニーズにきめ細かにカスタマイズされた製品を速く無駄なく届ける製造力という未来なのかなと思います。
今でも日本製品の品質は安定して安定していると思います。そこだけはいろんな意味で身にしみています。
これが上手く世界の潮流に乗ることが出来たのなら、日本の製造業(主に中小企業かもしれない、インダストリー4.0はそのためのもの)は世界を相手に商売できるのではないか。そんな感想を抱きました。
最後にまた断っておきますと、畑違いのソフトウェア屋の感想なので、これは違うと思ったら是非この本をお手にとってみてください。
私が取りこぼしたであろうポイントや、実際の現場へのアドバイスなども詰まっています。
気になったら少しでも是非に。
それから、この著者の山田太郎氏、2016年夏の参院選に出馬されております。
日本の製造業の未来について本書が重要だと感じられたら、投票の際の参考に是非。