※この物語はところどころフィクションです。ヤクザ映画風にお楽しみください。
またしてもインターネッツをさまよっていたら、
「キリストってキリスト教広めてなんでか最後磔になった人でしょ?」くらいの認識でうっかり読んでしまうと諸々の歴史認識がヤクザの内部抗争という形で上書きされてしまうのでお気を付け下さい。ほんとどうしてくれる。
抗争の幕開け
本書ではキリスト教の辿った歴史をヤクザの抗争に置き換えて(この時点でだいぶクレイジーです)わかりやすく面白く解説していってしまった書になります。
イエスやパウロなどが活躍する新興団体であった頃の記録からローマとの抗争、ドイツ王国との権力闘争、十字軍の遠征、ルターによる宗教改革を経て没落気味のキリスト教会がファシストと手を組むかもしれないことを匂わせる…というところで終わっています。そのひとつひとつのエピソードに震える。
物語は、ユダヤ組系ナザレ組のイエス組長が処刑されるところから始まる。
「おやっさん…おやっさん…なんでワシを見捨てたんじゃあ!」
これがイエス組長最後の言葉となる。
この丘に至るまでの経緯も、イエス人気を良しとしない他の組の幹部が、いろいろと難癖をつけ、謀略によって「ユダヤ人の王」に仕立て上げられ処刑されるという実に生臭い流れ。
イエスも奇跡じみたことはあんまり起こしていなく、上納金の上前をはねている他のユダヤ系組織を批判したり、「ヤハウェのおやっさんも怒りゃせんから…安心してつかぁさい…」と説いて回ることで心の負担を取り除き結果として病を治したことになったり…
実をつけてなかったイチジクの樹にヤクザキックを食らわせ「腐っとれやこらぁ!」っつったらほんとに腐り倒れてたというのが奇跡っぽかった。
小銭を渡されたユダがイエスを売ったのは有名な話ですが完全に893の内部抗争。
そしてイエスが処刑されてからがある意味この血みどろの歴史の本番となる。
思い込みが激しいが布教能力だけは妙に高く利用されるパウロの足跡、ローマにおける迫害からの脱却を勝ち取るための抗争、叙任権(司祭などを認める権利)を巡るドイツ王との仁義なき抗争…
その後の十字軍の遠征やルターの章に至ってはもう完全にヤクザ。というか十字軍な、なんか「聖地エルサレムを取り戻す」くらいしか習ってなかった気がするけど完全にあかんやつやろこれ。
ルターはルターで厄介でしかないしほんとやべえなこのへん。
妙にわかりやすい抗争の歴史
すごくふわっと学生時分に歴史で習った気がするなあという感じの、聞いた覚えがあるくらいの単語が出てくる程度のひとからすると点と点が線で繋がっていく感じがして大変わかりやすくてやばい。
「キリスト教といえばローマじゃないの」っていう程度のそれだと、ローマで怪しい邪教集団みたいに見られてて弾圧されてるの逆に新鮮で、そうかあの組も新興団体だった頃があるのか…みたいな謎の驚きがある。
また、宗教じみた話じゃなくてだいたい内部での権力闘争に明け暮れてる感じではあり、組織というのはどこでもなあ…みたいな感じになる。むしろそのせいで身近になって理解しやすいのかもしれない。
内部だけでなく外部との抗争ももちろん勃発。ドイツ王ハインリヒ四世と時の教皇グレゴリオス七世による「カノッサの屈辱」からのドイツ王大勝利、さらにその息子ハインリヒ五世と教皇パスカリス二世のやりとりとその末路なんかはもう仁義なきシマ争いである。血で血を洗うこの世界ではいい人では生き残れないのか…
脚色されているがだいたいあってる(らしい
ハインリヒ五世とパスカリス二世が面と向かってやりあったみたいなところは演出として脚色された部分らしいとかですが、そういうところを除けばだいたいあっているらしい。でもそもそも解釈によって意見が分かれるところとかもあるらしいのでそのまま信じるのは危険。ややこしい。
個人的にはもともといろいろと学がなかったので、なるほどそうだったのかと想ったところが多くてよかったです。先のローマのところもそうですが。イスラム教とキリスト教は全く別の宗教だと思っていたので、大元は同じ(キリスト教でいうところの主=ヤハウェ=アッラーフ)であるとか。ヤハウェのアラビア語の呼称の一つがアッラーフ。
十字軍の遠征なんかでも、エルサレムが聖地で取り戻すと言われても「???」って感じだったのですが…流れを追っていくと、なるほどなあと。
共産主義が嫌われてるのも、てっきり資本主義と相容れない思想だからだと思っていたのですが、最後「共産主義の外道どもだきゃあ、ぶち殺さにゃあならん!」ってローマ・カトリック会の幹部ヤクザP氏が息巻いてるところからするとそれだけじゃあないんだなって…
(共産主義は宗教に否定的らしくて、「宗教は精神のアヘンである」とかいっていたらしいとか)
ちなみにこのP氏、ヒトラーを「見所のある奴じゃあ!」って褒めてたりするわけだが結果はご覧の有様である。
という素敵に仁義のない歴史解説本だったのですが、難を言えば宗教用語をあえて使わず任侠用語風に置き換えているのが、逆に個人的に混乱してしまったところがあります。(例えば、「任侠道」と言ってたらたぶん教義のことを指してるんだろうなあとか)
けれど実に楽しい本でした。だが不思議と闇は感じなかったところが広島弁の力なのかもしれない。(違うか
魔女狩りの話は無かったなと思ったけど、本題の仁義なき権力闘争とは違うところだからかなあ。
魔女狩りとか異端審問とかの闇については「ダンス・マカブル」にあふれているのでそっちのほうが好きな人は…
血なまぐさい宗教戦争だと、上記作者がフス戦争を書いた「乙女戦争」なんかもおすすめ。女の子がかわいいのがさらなる闇を引き出す。
それから、イエスさんは今は東京の立川にあるアパートで平和に暮らしてるみたいです。よかったよかった。