広島は呉にお嫁にやってきたすずさんの生活を中心にして愉快に綴っていく漫画。だいたい嫁入り日常系。
もうすぐ(11/12)劇場公開される映画「この世界の片隅に」の原作になる漫画。最近よく名前をみるようになったので、つい読み返してしまいまして。
呉にお嫁にやってきた、すずさんの日常
第二次世界大戦中の昭和19年、広島市から呉市へとお嫁にやってきたすずさん。

(「この世界の片隅に」より)
めげない感じの天然さんである。
戦時中の嫁入り話…と聞くと、印象としては悲観的な話だったり勇ましい話だったりを思ってしまうのですが、これは普通の女の子が普通に嫁入りして普通に暮らしていく話。
生活は楽なものではないけれど、毎日をけなげに過ごしているすずさんやその家族、周りの人たちなどの様子はすごく自然体で、騒がしくも楽しい日常、という雰囲気がすごくいいです。

(「この世界の片隅に」より)
しかし嫁入り恒例、義姉との対立…

(「この世界の片隅に」より)
天然には勝てない。
平和だ…


(「この世界の片隅に」より)
ほんわかしすぎではある。

(「この世界の片隅に」より)
すずさんの嫁入り物語
そんなすずさんがどうしてお嫁にくることになったかというと話は簡単で、嫁に来て欲しいという申し出が北条の周作さんからあったから。
子どもの頃に一度会ったことがある(すず本人は覚えてなかった)というところはあるにせよ、面識がなくても年頃になれば普通に生活の一環として嫁入りするようなこの感じ。

(「この世界の片隅に」より)
強制されているわけでは全然なく、そういうものみたいに受け入れているあたり時代を感じますな…

(「この世界の片隅に」より)
一方で、元気に怒鳴り合える昔なじみもいたりして、いろいろ目が離せないことに…なるまでもなくあっさり嫁入り。
嫁入りしてからはまああの調子で過ごしていくすずさんですが、この幼なじみの哲との話や、遊郭で出会うリンさんとの関係なんかで心が大きく動いたりもします。
すずさんの日常をゆっくりウォッチしていたこっちもそれにつられて動揺したり二度見したり、言葉の意味を考えたりしていったり、いろいろ察していったりするのがとてもひきこまれている。
結構、日常がさらっと書かれていく感じだったり、心の機微はあえて解説されていなくて、行動などで表現されているようなところがあったりするので、いろいろと察するのはとても重要な気がするというか察してしまう。
戦争という日常
そしてさらっと書かれていくのが、戦時下の日本。
戦争ドラマなんかではなく、普通の国民の毎日の話ではあるんだけど…だからこそ日常に戦争が溶け込んでいる感じがまた、ほわっとした絵柄と天然明るいすずさんの毎日からもにじみ出てきているのがじわりと薄ら寒くなる。
また、妙な現実感を感じたのは遺骨を引き取ったりしたとき。戦争だから当然そういうことはあるのですが、こう、派手に悲しむわけでもなく、わりかし普通なんですよね。
割とね。亡くなったときってそこまで大げさじゃないのが普通だよねってちょっと思ってから、その普通さがすごいと思った。
でも作品としては昭和20年の8月、それに向けて進んでいくのですが。後半のほうはここまでの日常があったからこそ、大日本帝国の戦争が日常になじんでいたからこそ、というようなところがガンときてだいぶしばらく天を仰ぐ。
そしてそれまでもそれからも、すずさんたちの日常は続いていくだろう、というこの感じがいい。
ここから日本は戦後の復興、高度経済成長期に突入していくのでしょうけど、すずさんたちはどう暮らしていったのか。なんてことを最後に思ったりもしました。
もうすぐ公開される映画の公式サイト。どんな感じになるのかなあ。