世界が滅ぶ危機を抱えた一冊の本を回収するためやってきた魔女・ゼロと、生まれのせいで魔女に追われる「傭兵」が人と魔女達の争いに巻き込まれていく魔術的ファンタジー。
これもBOOK☆WALKERとKindleで1巻無料で、出たときからそのイラストレーターさんといい「ゼロから始める魔法の書」というタイトルといい完全にこれは…という感じで気にはなっていたので読んでみたところ別にそういうところは全然関係なかったんだけど想像以上にケモかった(男が)。マーケティングに釣られた格好になります。たぶん?
魔女と野獣
まずは完全に不意打ちであったこの「傭兵」のケモさ。
(「ゼロから始める魔法の書」1巻より)
完全に獣人だ…
といっても元は…というか中身は「人」というか、「獣堕ち」と言われる呪いのようなものでこうなってしまっているだけというところではあります。
(「ゼロから始める魔法の書」1巻より)
なのでこう、微妙に気の抜けた表情豊かなあたりがまたファンタジー的描写でポイント高い。
彼は「獣堕ち」によってこの姿形を得ているのですが、その「獣堕ち」の首は質の高い贄になるということで、魔女(とそれに売りつけようとするもの)たちから命を狙われていて、当然ながら魔女大っ嫌い。
(「ゼロから始める魔法の書」1巻より)
その彼が追っ手から逃げているときに出会うことになったのが「泥闇の魔女」ゼロ。
(「ゼロから始める魔法の書」1巻より)
ゼロは盗まれた一冊の書を追って旅に出た「十三番」という男を探しにここまでやってきたという魔女。悪用されれば「世界が滅ぶ」とまで言うその本の行方も探してはいるが、とりあえず十三番の痕跡を追ってきたような感じ。
魔女とはいえ、別に「傭兵」の首を狙ってはいないようで、むしろそのもふもふ加減に懐いているような感じすらある。うむ。
獣堕ちした彼を「傭兵」として雇いつつも、名前を知ると使役することになるから知らないままにしておく(ゆえに、彼は作品中「傭兵」という呼称のまま)など謎の優しさを見せつつもその魔術知識は一級品なクール系才女である。
魔術と魔法
そんなゼロが探しに来ることになった本は、この世界での「魔術」と「魔法」に関わり深いもので、魔術的な常識を覆すような事柄が記してあります。
魔術や魔法の定義って、作品によって微妙に違っていたりするんだけれども、ここでは「悪魔や妖精などを呼び出して力を借りる」のが魔術、「呪文のみで魔術を起こす」のが魔法、となっています。
このあたりが明確に作品世界の「盲点」、いわゆるパラダイムシフトというやつに繋がっていて、これが起こると確かに世界は劇的に変わります。ともすれば滅ぶというのもあながち大げさではない。
…でも発見されるきっかけとしては、「誰もやらなかった」それくらいのものなんですよね…
そういう点ではこれ、ここで本を回収してもいずれ広まるものではないかとも思えました。(というか、すでに遅い感じもあるこれ)
「常識」や「原理」のウラを問う
話の目的の根幹にあったのが、「魔術」のパラダイムシフトであったのに加えて、全体的に常識や思い込みが裏返ったり、多数からのものの見方で事態を秤に掛けるようなところがある気がしました。
そのあたりで価値観に揺らぎが出るところが見所なのかもしれない。
(「ゼロから始める魔法の書」1巻より)
魔女とくれば「魔女狩り」と「教会」という組織のそれであったり。今起こっている事件も、そういう認識、すれ違いの果ての抗争だったのかもしれなかった。などなど。
そもそもからして「魔女嫌い」の傭兵と魔女のペアですからね。でもこれが衝突せずに上手くやっているのはある意味なんだ、どういうことなの。
傭兵さんのあんまり深く考えてなさそ狙ってくるから嫌ってはいるけど魔女を恨んでるというわけでもなさそうなところと、ゼロの無頓着クールな成分が絶妙にマッチした奇跡の結果なのかもしれないですね。
でも人と魔女の抗争は根深く闇を抱えてそうで、どこか着地するところがあるのだろうか…