3歳になる娘を殺されてしまった辻口一家と、その殺人犯の娘である陽子。そして辻口啓三が陽子を引き取って育てていくという複雑な人間関係が、少女漫画風に綴られていく。
なんていうか切ない。陽子よりむしろ、継母となった夏枝さんのほうが…
上下巻で綺麗に終わっていて読みやすい。
「原罪」というもの
陽子はもうあらすじにもあるとおり、辻口ルリ子を殺した犯人、佐石の娘。
犯行も、佐石が育児に参って神経衰弱となっていた末の突発的犯行というのがまた救われない感じなんですが、その陽子がどうしてよりによって辻口家に引き取られることになったかというのがまた…うん…
それはどう考えても心穏やかではないでしょう…
もちろんこのことを陽子は知らない(実子ではないということには気づいてる)。事実を知るのは限られた人間のみで、当初は啓三だけだったけれども、夏枝は偶然このことを知ってしまう。
また兄、辻口徹もそれを知る一人になるんですが、それによって逆に「陽子とは一緒になってはいけない」と思うあたり、ああこの人いい人だ…
なんていうかきっとどこにでもいる普通の人たち。だけれども憎悪と不仲で話がおかしなことになっている。
「殺人犯の娘」という十字架を背負ったとされている陽子が一番まっすぐなんですが、これも「自分に恥じるところはないのだから、そうでありたい」という、夏枝の仕打ちに対する裏返しみたいなところがあって、しみじみとつらさが出てくる。
夏枝さん
夏枝さん…夏枝さんな…
だいたいこの人がいろいろとこじらせている感じするんだけど、この漫画、陽子の境遇よりむしろ夏枝さんの心の動きのほうが重視されているようにも感じて…なんというかここにもつらさが…
事実を知る前はあんなに陽子を可愛がっていたのに、知ったときの場面を見ても、もう陽子の母親だと思ったんだけど。だんだん陽子に対する言動がおかしくなっていく。さらにその娘が歳を重ねるごとに美しくなっていく。息子は明らかに陽子に惚れてるし陽子に対する夫の態度も軟化してる。これ完全につらいわ…
だからまあ…事の発端からしてこの人が悪くないとは言えないんだけど…どうしてこうなってしまったのかという感じの方がつらいし全部村井医師が悪い。
あいつはちょっと地獄の業火に焼かれるべき。あいつが戻ってきたところが決定的におかしくなったところな気がする。
それは赦されるのか
ラストは結局、さらなる真相が明かされてなんかこう良い感じに終わった感じではあったんですけど、個人的にはそれが救いになるのかという疑問は残りました。
唐突でご都合主義的な印象もあったんですが、なんか結局「生まれ」に左右されるばかりで、その事実とその未来、陽子にとっては逆に地獄の蓋が開いてしまったのではとすら。
「原罪」というものは、本人の努力ではどうしようもないものであったのですが、その結末がこれだと、それが赦されるということはあり得なく。またそれに連なる諸々のそれも、こういう形でしか赦しを請えないのかというやりきれない感じになりました。
生まれがどうこうというより、それを受け止める周囲の言動が積み重なって、救えないところまで来てしまうようなこれ。救われない…
余談ですがこれ、今のところ電子書籍でしかないみたいで。Kindleの他では紀伊國屋Kinppyでもありました。小学館の漫画を扱っているストアなら検索すればあるかもしれません。
というかですね。マンガワンで最終話一歩手前まで公開されていて次回更新は6月6日。気になって単行本探したら登録日が4月22日。おまえー!
AndroidかiPhoneのアプリじゃないと読めないみたいですが…基本無料公開されているので、気になった方はまずちょっと読んでみるのよいのではないかと思います。大丈夫! ちょっとだけだから!