つんどくダイアリー

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わりと好き勝手書いてるからネタバレてたらごめんね。旧「怒濤の詰ん読解消日記」。積まれてしまったマンガ、ラノベなどを読んで感想を書いています。結果として面白い本の紹介だったりまとめだったりになってる。/端末の表示によると、あと740冊/※本サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。ページ内のリンクがアフィリエイトリンクの場合があります。

「有害都市」 リアルにあったかもしれない未来予想図、或いは私が恐れていたこと

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(「有害都市」上巻より)

 表現規制が強化され、国の「有識者会議」で有害図書が決められるようになった近未来。というか2019年の日本が舞台。

漫画家の日比野幹雄は「人の屍肉を食べる衝動が抑えられない病気が蔓延した現代のパニックホラー」ものの漫画を描いたことでその表現規制の網にかかってしまう、という話。

 

有害都市 上 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 巻数は2冊なのですが上下巻なので、まとめて感想を書きたいと思います。

 

ありそうな未来とこれからの未来

 まず率直な感想として、「将来こうなっていてもおかしくない」というつらい感想を抱きました。

逆に言うと、「最悪のケースとして、こうなることもあるだろう」という未来予想でもあります。

 

 この作品の連載がスタートしたのは2014年4月からでした。当時これを読み連想したのはまず、東京都の都条例改正による表現規制の強化ですね。

Wikipediaにも乗っていますが、当時の都知事はいろいろとひどい発言が多く、東京国際アニメフェアがボイコットされる事態にまで発展していました。(都知事も副都知事も、元有名作家というのも厄介な要素でしたし、その作品が発表された当時それこそ「青少年に悪影響」と言われて一世を風靡していたのも、その世代の支持が多いのも(そんな作家が「改心」してるという意味で)厄介でしたね…)

だいたい「良識」だの「傑作なら問題ない」だの、「私が正義と思ったら正義」みたいな話ばかりでうんざりだったのを思い出します。

 「有害都市」に出てくる有識者会議というのも、漫画の中のことなので嫌味ったらしく描かれてはいますが、言っている内容はどこかで聞いたこと/そう思ってるんだろうなというようなことばかりです。

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(「有害都市」上巻より)

 そして奇しくもこの作品、連載中に「ジャンプ改」から「となりのヤングジャンプ」というWebメディアに移籍してるんですよね…(これは「ジャンプ改」が休刊したためですが)

 東京オリンピックも2020年に決まったり、「ははは新聞免除するための方便なんだろ」と思ってた「軽減税率に伴う書籍の有害指定」も結構マジだったというはははマジかよハハハみたいな連載時には想定してなかっただろう現実との一致もみせてくれます。

 そういう奇妙な一致がまた、リアリティを与えてくれます。ほんと現実勘弁してほしい。

 

作品のバックボーン

 実はこの作者の「マンホール」という別の作品、長崎県の有害図書に指定されたという経緯があり、そのときの経験や感じたことが多分に反映されていると思われます。

 表現規制のやり玉に挙げられるのはだいたいエロ表現なのですが、グロをもってきたのはこのあたりでもあるのかなと。

(エロとグロはセットで最初に検閲のやり玉に挙がる、というのは定説のようでもあります)

 また作中には、規制強化を引き起こすきっかけになった漫画とその作者が出てきて、作者は「矯正プログラム」によって「改心」させられていますが、規制もやむなしというスタンスでの論を説きます。

 むやみに過激な表現をよしとしているわけではなく、こういう気持ちもあるのだと思います。第三者ではなく創作者当人が語り、自身のモラルとして線を引くのであれば、真っ当な論であるとは思います。

 

「有識者」の描かれかたのリアリティ

  視点が漫画家サイドなので、規制を行う「有識者」については否定的なニュアンスで描かれています。

 ですがこの有識者達は、何らかの利権や金品などを要求するために規制をするようなわかりやすい悪役ではなく、自身では「社会法益のため」に活動しているつもりなのだろう、という感じで、それがさらに恐ろしくもあります。

 「悪事を働くわかりやすい悪役」であれば、成敗されるオチのフィクションで済んだかもしれないのにそうではない。

 

 逆にいうと、「漫画家視点から見た、表現規制に弾圧される主人公達」という面が強く、ある面でプロパガンダ漫画かもしれません。その点には注意する必要があると思います。

 

これからこうなってしまうのか

 私個人の今の感想としては、この作中世界のようなひどいことにはならないのでは、という感じです。(だからタイトルも「リアルにあったかもしれない」です)

 それは表現規制に関して出版社や作家の方々が「なにもしない」ということはなく、声を上げてくれたからだと思っています。(このあたり本題からどんどん離れていってしまうので詳細は割愛しますが)

 作中では健全図書法成立時の背景として、「漫画家や出版業界が何もしなかった」というのが上げられています。

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(「有害都市」下巻より)

 この後に続く言葉の前振りですので、このような形でここだけ引用すると誤解を招くところなのは承知していますが、背景としてやはり「何もしなかった」というのが影響しているのだろうと思うと、現在の状態はだいぶ良いのではと思います。

 

 ですがこの作中でも、「2014年の改正児童ポルノ禁止法では漫画やアニメは対象から外された」ことがひっくり返されるという状況にもなっていて、これから数年で、それこそ2020年の東京オリンピック「浄化活動」でどうなっているかというと分からないというのはあります。

 規制を推進したい「良識ある人々」にとって、むしろこの漫画に描かれているような未来こそが「目指すべきユートピア」なのでしょう。

逆に「この漫画に描かれているような未来」が、私が恐れていたディストピアの具現化だったりします。

 

 なんかいろいろと連想してしまい、漫画の感想といえるのか…という文章になってしまっているところはありますが、それだけのリアリティを感じられた、ということでどうかひとつ。

 最後の展開まで含めてリアルリアリティ。

 

 作品の最初のほうはWebで公開されているようなので、ぜひそれだけでも目を通してみてください。

 何か感じるものがあれば、その続きも是非。

tonarinoyj.jp