アイヌの埋蔵金を巡る旅を綴った冒険活劇ここに完結。公式に5/8まで期間限定全話無料公開されているようで、この2日で最初から全部読んでしまいました! 噂通りめっちゃ面白いですね!
この作品は「目的が最初からはっきりしていて、そこに向かって物語が収束していく」タイプだから進捗具合や筋書きは伝わりやすく、またちゃんとクライマックスまで完結できてよかったとも思います。登場人物が容赦なく脱落していくタイプでもある。
最初のうちは埋蔵金の噂を聞きつけた戦争帰りの杉元と鍵を握るアイヌの少女アシリパ(リは小文字)が、まず脱獄囚に彫られた入れ墨の地図を探し始めていくのだけど、この地図が彫られた皮を剝ぐこと前提にしたような代物でよく考えるとそこからすでに異常。(もっとよく考えると別に剥がなくても写せばいいんだけど) その地図を半信半疑で集めるうち、顔なし「のっぺら坊」と呼ばれてる入れ墨を彫った囚人の存在、脱獄王と呼ばれるお調子者、幕末人斬り集団の亡霊が率いる脱獄犯を中心とした一味、埋蔵金を奪取するため暗躍する大日本帝国陸軍第七師団、日露戦争やロシアとの因縁などどんどんケレン味が追加されていくのがたまらない。
そして埋蔵金が用意された目的や過去の背景を知り、アシリパがするべきことを見つけ、クライマックスに向かっていく過程で登場人物それぞれの関わりやエピソードが提示され、過去が繋がってクライマックスに向かっていきます。
その地図を奪い合う登場人物もキャラの濃い…いや濃いだけでは済まないですね。それぞれのバックグラウンドでどんなふうに歪んできたかが解説されたりもするからまたやばい。第七師団はだいたい鶴見のせいって可能性もある。あるけどその鶴見も過去を辿ると別の登場人物に紐付いてて、なんともいえなくなります。ただ鶴見の人心掌握術は異常でね…「鶴見劇場」なんで呼ばれてもいますけど。あそこまで周到に「望んでる言葉、シチュエーション」を用意されたら、騙されてもいいって気持ちになるんだろうな…
それとは別に、脱獄した囚人たちも異常者が多いのだけど…こっちは普通のシリアルキラーです。普通のシリアルキラーってなんだ。いろんな逸話を元にしたキャラ作りされてるのかなって思いますね。支遁先生とか名前まんまじゃねえか。いいのかあれ。ポリコレがどうとかってレベルじゃない絵面と最期に本気度を感じる。
アシリパさんや杉元はそんな中でもだいぶまともな…この漫画の良心かもしれんなって気はしますが。白石とかもギャグ担当みたいな扱いですけど。ただこの漫画すごいところは、敵味方のオンオフスイッチや殺しのオンオフスイッチが簡単に切り替わるところです。そのせいで場面によって敵対している第七師団や土方一味のメンバーにも謎の親近感を感じたり、100%悪いやつともいえない、立ち位置が違っているだけでそれぞれの理由があって仲良くやったり殺し合ったりしてるんだなって感じになります。
ただ命は軽いですね…どこで誰が死んでもおかしくない。実際引き金引いたら死ぬくらいの勢い。躊躇も余韻もなく死ぬ時は死ぬ。主人公は「不死身の杉元」ってあだ名で予防線を張ってるくらい死なないけれど…登場人物が消えるのは一瞬なので、それこそ一気に読むと「えっあっ死んだ」って気づいたら死んでるくらいのこともありました。偽物とバレた途端に躊躇がないようなやつ。しかしその分、殺陣の迫力がすごい。土方さんとか本職だしな…刀剣あり銃あり殴り合いありでなんでもありです。スナイパー同士の静かな読み合いも熱いですね。
それに先にも書きましたがいろんなバックグラウンドもあって存在感はあるので、死に際がねっとり忘れられなかったりする者も多いです。あっさりめに逝くことが多いのですけどそれが逆に。その後ほとんど思い返されることもないのがまた。
また埋蔵金探しの旅にアイヌの文化が大きく関係してくるのも、知らないことが多くて楽しめました。最初のほうは2回に1回くらいの勢いで狩りをしてチタタプ (獲物を細かく叩くアイヌ料理) してるアイヌグルメ漫画かな?って感じに思ってました。シリーズ全般通して獲物を狩って解体したり脳みそ塩で食したりがよくある。獲物が新鮮だからかな…生肉をそのままの描写も結構あって大丈夫なのかなって思ったりもしました。(でも私も刺身とかは普通に食べますし…) 杉元がだんだん餌付けされてて脳みそ食べてるのは何事も慣れだなって思いましたが。あのアシリパの頭部を食わせようとする意志はどこから来るんだ。でも珍しい獲物を狩ってアイヌ料理で食すのはこの作品ではブレないところでしたね。流石に後半…街が舞台になっているときはありませんでしたが…逆に和人の街からは自然が失われているってことですね(そうじゃない)
タイトルの「ゴールデンカムイ」回収も良かった。いろいろなものに「カムイ(神)」が宿るアイヌの信仰や、それが「金(Gold)」にかかっている意味、果たしてそれが善か悪かまでの感じ方がアイヌ文化を知っているかどうかで別れるような気もして、その面では漫画の中で紹介してきたことがすべて繋がっていくのかなと。
アイヌの描かれ方はいろいろ言われていますが、個人的には「この作品はこれでいい」かなあと思ってます。埋蔵金探しがストーリーの主軸にあって、その過程でアイヌの風習や食文化が紹介されているように感じます。もともとの埋蔵金の使われ方やそれに纏わる話、日露戦争に絡んだ因縁など、バックグラウンドを見ていくと政治的、民族的な問題も見え隠れしているのですけれど、結局は「登場人物が自分の目的のために動く」ってところが軸になっているから、変に(現実の)政治的な話に逸れてなくて読みやすかったように思いました。作品内での伝え方が上手かったのかもですが。
登場人物も多くて話数も多いので読むのしんどいと最初思うのですが、1つのエピソード単位ではわかりやすくあっさりめに進んでいくから逆に読み応えがあって面白いです。ちゃんと終わってから読むとなおさらわかりやすいかもしれなくて、全巻無料公開されている今だと読み始めたら止まらず1日くらいで一気に最期まで読み終えました。人によっては苦手な描写が多いかもしれないので、読んでみて駄目なら駄目で仕方ないと思えるくらいには万人向きではありませんが…ちょっと興味が湧いたら読んでみると面白いと思います。
スマホで読むならヤンジャン!アプリ、ブラウザならとなりのヤングジャンプサイトがいいかもしれないです。量が多いからWi-Fiで読まないとたいへんなことになるから、主には家にあるFire HD10 Plusからブラウザ版を読んでました。読んでてロードとかも気にならなかったのであのビューワー優秀かもしれない。