「不思議だ 危険な場所にほど美味いものがある」から始まる、原作者・青木潤太朗氏によるハードボイルド食レポ漫画。たしかに各地の食べ物を扱っている…のだけど、 絡んでくるエピソードの「日常の風景だが一歩間違えばアウト」感が 世界の裏側をみてる ような気持ちになってきます。 「この漫画は 基本的にノンフィクション です。作中に登場する人物、場所、料理等はすべて実在します」の注意書き そっちかよ ってつっこみたくなりますね…(普通、漫画作品用に話を調整したりして「フィクションです」って言う方かと思ったら)
でも 出てくる料理はめちゃくちゃうまそう。それから登場する人たちも良い人ばかりで「危険地帯」って呼ぶことに抵抗が出てくる。しかし何事もなかったからそうなんだろうなあって気持ちも…
- 2018年3月・メキシコ「マフィアの拷問焼き」
- 2017年冬・シカゴ「イタリアンビーフ」
- 2016年冬・ブラジル「オレンジジュース」
- 2016年冬・ブラジル「豚足(ハム)のファビュラ風」
- 2017年初夏・アメリカ・コロンビアリバー「エルビス・サンドイッチ」
- ???年・アメリカ・シカゴ「ブレックファースト・バーガー」
- 二次元の過剰摂取
2018年3月・メキシコ「マフィアの拷問焼き」
のっけからこれですよ…聞いたことすらない物騒な料理名が出てきた。「マフィアの拷問焼き(ロモアールトラボ)」。メキシカンマフィアの処刑法をなぞった料理らしい。肉を布に包んで丸焼きにすると、ステーキのピンク身の部分がたっぷりできあがる。マジか…
日本だと「ロモ・アル・トラポ(牛塊肉のタオル包み)」で検索引っかかってくるので、こちらのほうが一般的なのかもしれないです。名前も物騒じゃないし。イメージ的にはローストビーフみたいな感じなのかなあって思うのだけど、著者の感想としてはステーキ肉のほうみたい。
そしてこの料理を現地の人達と、マフィアの抗争で荒廃した第二サンマルコス村で、湖に沈んだ第一サンマルコス村に思いを馳せながら食す…ただ地元の人らが集まって、肉料理を振る舞っているだけの話です。しかしなんともいえない味がある。
「普通は日本人こんなとこに来ない 怖がって」と言われ「怖くないですよ 同じ人間じゃないですか」ってさらっと返せるから、この漫画原作ができるんだろうとは思いました。
またコラムによると2021年現在、ピカチョス湖と第三サンマルコス村はレイクリゾートとして成功しているようです。このエピソードを読んでからそんなこと補足されたら行ってみたくなりますよね。( 釣り人にはもともと有名なポイントなのかな。青木氏も釣りが趣味で世界中を回っているようですし)
2017年冬・シカゴ「イタリアンビーフ」
冬のシカゴでイタリアン・ビーフ・サンドイッチ。 絶対ヤバそう。カロリーが。 でも 絶対美味いやつでしょ…
そして肉の量もすごいが…俺はこのエルフさんの雰囲気がものすごく出ててすごいと思ったよ…めちゃくちゃマッチしている…
アメリカン・ギャル(に見えている)ロブさんに案内されて行った先のマスターがエルフさん。異世界感がある…シカゴはイタリアン・マフィアの本場らしい。イタリアン・マフィアは映画「ゴッド・ファーザー」などが有名ですね。つまりそういう方向です。「鍵は忘れても銃は忘れないところにいくつもりなんだな…!」って心のツッコミがたのしい(他人事)
さてこのイタリアン・ビーフ。代用調理法(エルフさんによると80%程度の再現度)も記載されていますが、「薄切り牛肉から出た肉汁でしゃぶしゃぶしてパンに挟んだらパンごと肉汁ダイブ」って感じの肉漬け。うまそう…うまそうだが追加でコレステロールのお薬でそう…!
当然肉汁がぼたぼたするから食べるためのスタイルもあるようです。この料理がやばい。
日本で食えるところはないのか…って思うのですが、チェーン店やファーストフード店では全く心当たりないし…日本で出店しようとしたところ手が汚れるから駄目だったみたいなことも書いてあって、あー…って思ったりも。絶対ベタベタになるから…
サンドイッチの本体は パンではなく肉。この「サンドイッチ工学」を収めたイタリアンビーフを食すには、やはり作るしかないのか…
2016年冬・ブラジル「オレンジジュース」
「私には "私が初めての場所に遠出すると漫画家が捕まる"というジンクスがある」から始まるエピソード ちょっとまってほしい。えぇ…
さておきブラジル・アマゾナスでイケメンお金持ち釣り名人のロドリゴさんとフルーツジュース。二次元の過剰摂取で壊れた脳を通してみてもイケメン美女になっているあたり、当人は相当イケメンなんでしょう…「大丈夫ですよ いっぱいありますよ」芸人になってるあたりは草。
フルーツジュースは表題のオレンジに入る前にアバカシ(パイナップル)ジュースから。この時点で次元が違う。どうもギリギリまで完熟させたパイナップルがとんでもないみたい。パイナップルは木からちぎると追熟しなくなるとのことだから、輸入品では味わえないものになっているそう。 もう物理的に現地でしか無理なものが出てきた。
次いで出てくるオレンジジュースも「元になっているオレンジ自体はそのまま食べてもおいしくない」ところがポイントで、だからこそジュースにすると異次元のうまさになると。これも…現地なのかなあ。
そして今回はそんなに危ない感じがしない。「いまや"大自然アマゾン"は正直 超快適に滞在できる」とナレーションがはいるくらい。 といっていたらクロコダイルさんがスゥーっとくるのだけど、現地だと小さいのはノラネコみたいな扱いで草。でかいやつも「ちょっと危ない」って笑うロドリゴさんからすると、自然との距離を知っていればそう危険なことはないのかもしれないと思わせられます。
このエピソードで登場する人間は青木氏とロドリゴさんの二人だけ。クロコダイルを「ちょっと危ない」って笑うロドリゴさんが、「ここは何も心配ない 人間がいないからね! あなたと私だけ!」とジュンターロ(青木氏)に告げるところでは、「危険地帯」の意味を少し考えたりもしました。
2016年冬・ブラジル「豚足(ハム)のファビュラ風」
引き続きブラジル滞在。釣り名人、マリオザンさんも合流。前半はアウトドアで焼き魚料理、後半で表題の豚足(ハム)が登場。豚足と聞くとつま先がついてる足のイメージがあるけど、ちょっと違う感じですね。
まず昼はフィッシングと焼き魚。「昼は必ずちゃんとゆっくりとる」ブラジルの文化もいいなあ。ブラジルすごく平和だ。しかし魚の値段…地域によって希少性が違うからとかなんだろうか流石に…
夜はファビュラ(スラム街)での豚足(ハム)焼き。見ていると日本で売っているハムのイメージではなくむしろステーキみたいな、肉の輪切りっぽい感じがする…昼は魚で夜は肉。うまそう…
マリオザンさんの「好きなこと(釣り)をして生きる」と決めた話、そういう意味で同士だと思っているところはすごくうらやましさを感じます。その思い切りに。普段めちゃくちゃざっくりカットして翻訳してくれるロドゴスがちゃんと全文伝えてくれてるあたり、大事な話なんだろうと。
昼から夜、そして空港での別れと著者の感じていた「サウダージ」が伝わってくるような、おだやかな回だったと思います。(「サウダージ」って聞くとポルノグラフティの名曲を連想してしまううえに途中からずっとループするまである回)
「生きてる魚は死んでいる魚より価値がある」、これはコラムまで読んでなるほどと思いました。子どもの頃に釣りをしていたとき、「キャッチ&リリース」ってブラックバスとか逃していたこともあったけど、さすがにここまでは考えてなかった。そんなことも思い出す。
2017年初夏・アメリカ・コロンビアリバー「エルビス・サンドイッチ」
水上保安官の取り調べから始まる回。ブラジルは平和だったのに。いや別に何かやらかしたわけではないので、やりとりは穏やか。ただこのあたりでギャングが「よくないもの」を取引しているって話をきいて、先ほど「釣れない場所」に止まっていたボートが頭をよぎる。その先の追求はしていない…
アメリカ人はフレンドリーにコミュニケーションとってくるのがデフォってイメージあったのだけど、「銃社会だから"ちょっとしたケンカが"が簡単に殺し合いになるので"私達は仲間ですよね"を大事にしている」って著者の考察で印象が変わりもしました。人見知りのデビッドでもお節介にみえるようなコミュニケーションを取らないといけないように。親切心で声をかけている面ももちろんあるだろうけど。人が怖がるのは「知らないこと/人」だから、それが暴力的リスクに直結してると大変ってことなのかもしれない…
そして 食べ物そのものがリスク* のカロリー爆弾「エルビス・サンドイッチ」。イタリアンビーフがかわいく思えるエネルギーの塊…
パンを割ってバターを塗ってピーナッツバターとブルーベリージャムを塗ってバナナの輪切りを敷き詰めてカリカリベーコン山盛りサンド。そして揚げる。 最後に砂糖をまぶす。甘いのをしょっぱいので挟んで揚げて食す。絶対やばい。ジャムにベーコンかあ…とはちょっと思ったけど、でもするすると入っちゃいそうだよなあ。(コラムで「籠もり仕事をしているときに作って食べたらその日の晩はウルトラ胸焼けに襲われた」ってあって、ああなるほどとも思った)
最後はブラ・ヒル(ブラジャーが吊るされた橋)の景色で締め。何かの比喩でもなくそのままの。「胸をブラで押さえつけると乳がんになりやすいから外そう」ってムーブメントが90年代に流行った頃の名残だとか。検索しても出てこないし、地元ローカルの俗称なんだろうかね。
???年・アメリカ・シカゴ「ブレックファースト・バーガー」
筆者がまだ20代のころ、初めてのアメリカ、初めてのシカゴでホテルに向かう回。ぼったくりタクシーを途中下車して夜道を1時間歩き、深夜早朝のガランとしたファーストフード店で腹ごしらえ。何事もなくてよかったとしかいえないやつ。ロブさんにも「絶対に 次にそういうことがあったら素直にすぐ金を払うんだ」とマジな顔で言われるくらい。
でも多分ここで食べたブレックファースト・バーガーとクラッシュオレンジジュースはずっと忘れられないでしょうね…
二次元の過剰摂取
とまあ、各エピソードが濃すぎるのですがもうひとつ面白いのが 登場人物全員美少女 な点。徹底的に美少女。
いや、おっさん趣味を美少女にやらせるとか、美少女擬人化みたいな設定は今日日珍しくないことですが、
ーー私の脳は
長年に亘る
二次元の過剰摂取で
壊れてしまっているだから
私の五感を通して
観測するこの世界は基本的に美少女しかいない
(「鍋に弾丸を受けながら」1巻より)
流石にこの語りはそうそうない
おじさんの顔がアニメ絵の美少女に置き換わっていく変換過程が描写されてるのも面白いですね。あぁ…って妙な説得力が有る。
人間の認識はその人にしかわからんのだ…