戦争が博打なのはいい。わかる。だがその男で大丈夫か…?
ヴァストファリアのギャンブル狂
士官学校で教鞭を執りつつ酒と博打にのめりこむ日々を平和に過ごしていたクズ、ライナー・クラウゼンが新女王コルネリアの即位をきっかけにその才覚を現しあれよあれよと出世していくある意味無双…ジャンル的にはたぶん立身出世…なんだけどその実体は無茶ぶりと紙一重の博打。
だいたいこういう話、酒と博打に溺れているのも才能が理解されなくて失意のうちにとか、本当はやりたいことがあってみたいな意識があったりするわけじゃないですか普通。ライナーにはそれが全く無い。
博打が好きすぎてパンとスープ程度の食費を残して全額突っ込んで巻き上げられ、「俺は少食でも健康だ…腹が空いていたほうが頭も回る…つまりしっかり食事を取らないほうが健康なのかもしれない(経験上)」とか言い出したり、方々に借金を重ねて(もちろん博打代)7度の破産を得て「ここまで来たら8回も9回もかわんねーよ!」とかのたまったり本物のクズだった。ていうか負けてるじゃねーか。
ここまで突き抜けてると逆になんか…ああ…ってなる。
そんなライナーさんがどうして軍師として引っ張り出されてるかというと、小国ヴァストファリアの人材不足に加えてそういったギャンブル感覚を絡めて書いた戦術本が一周回って業界内で大ウケだったらしく、そこそこ名の知れた作家になっていたというのもあったのかもしれない。(でも著作権という概念がまだない時代らしく、各国に翻訳され出回るのは海賊版ばかりでライナーさんには一銭も入ってこない)
一番の理由はやっぱり軍師としての才能をオールト元帥に密かに見いだされ、ということになるかもしれないですけどね。この元帥も根っからの博打打ちなんですが。博打打ちしかいない…
ヴァストファリアのギャンブル狂(2)
それを取り立てるほうも取り立てるほう、ということで新女王に即位したコルネリア様。即位からなかなかいいパンチをかましてくる女王様ですが、こちらも例に漏れず相応の博打打ち。
いや、博打というより計算高いといったほうがいいのかもしれませんが、勝たなきゃ破滅という状況にライナーさんを積極的に放り込んでいくのこの人だしな…
軍師というのはある意味、代打ちみたいなものなのかもしれない…
さらにロズワイルド銀行の才媛アリシアも一口乗ってきたりして卓のレートはますます上がる。こっちはこっちで商売優先というか、投資家というか。博徒というよりはイカサマ師、「勝てる状況に操作する」ようなところがありますけれど。
こういった戦争、戦略の話でちゃんと銀行が絡んできているのは珍しいかもしれないですね。しかもグローバルに展開している。
人の不幸が蜜の味
主人公のライナーさんはいわゆるやる気ナシのヤレヤレ系で、物語的にも不本意ながら功績を挙げていく系なんですがそういうのが本当に心底嫌そうなのが大変よく伝わってきて一周回って面白い。
加えてその放り込まれる状況がおいどうすんだこれっていうそればかりで、でもライナーさん真性のクズだからあんまり同情できない。大変楽しい。後方で軍に寄生しつつギャンブル三昧の日々を送りたいという気持ちは大変よく分かりますが。
ただ、無茶苦茶やってラッキーパンチで切り抜けているかというとそういうわけでもなく。そもそもが無茶ぶりの戦場ではあるけど、結果から振り返ると収まるべき結果に収まったと思えるところはありました。ライナーさんも保身に走るようなキャラじゃないし。運が良かったといえばそれまでなところもありますけど、それを呼び込むというのはどういうことか、というものでもあります。脳裏をよぎった言葉は「出るまで回すからハズレはない」。
英雄譚には違いないのですが読者の立ち位置としては祭り上げられ無茶ぶりされるライナーさんの行く末をお祈りする感じなので、「まじかよ…」って思いながら読み進めていくようなものでした。人生そんなものかもしれない。
あと民を駒(リソース)として、政治経済をルールの見えないゲームとして見てる雰囲気が全体的に伝わってくるの、なんというか「向こう側」感があってとてもいい。