怒濤の詰ん読解消日記

つんどくダイアリー

旧「怒濤の詰ん読解消日記」。積まれてしまったマンガ、ラノベなどを読んで感想を書いています。結果として面白い本の紹介だったりまとめだったりになってる。/端末の表示によると、あと740冊

高校まるごと異世界転移、494名による日本帰還へのサバイバル・ドキュメンタリー「タタの魔法使い」

タタの魔法使い (電撃文庫)

 第24回電撃小説大賞《大賞》受賞作。異世界転移の中でも大人数が転移する珍しい状況で、さらにそれを「異世界転移した生徒たちから聞き出したドキュメンタリー」として書いている作品です。

突如表れた魔法使いタタと飛ばされた学校

 7月のある日にクラスに出現した魔法使いタタに「卒業文集に書かれた全員の願いを叶えてやる」と言われ、その結果として否応なく異世界に学校まるごと転移してしまった弘橋高校。

 魔獣が普通に襲ってくる森の中に放り出されたところから、教師と生徒が団結して帰還を目指すサバイバルが始まりました。

 割と厳しい目のほうの異世界ですが、それを複数の生徒と教師が与えられた能力を使いながら協力していく群像劇でもあり、また普通の高校生らしい恋愛や感情の揺らぎなんかもあって色々な面から先が気になり一気に読めます。まあ片思いx片思いなんですけど。こういうのは爆ぜろとはいわん。良い。

 生徒達もそれぞれ「卒業文集の願い」に沿った無茶な能力(最強の魔法使いだったり、変身ヒーローだったり)を与えられているのですが、それだけで現実を打開することは難しく、また能力自体も多種多様でピーキーなものばかりなため、個人ではなく集団で進んでいくことになるところが面白いです。「座敷童大好き」で幸運値が跳ね上がっていたり、「あの鍋がほしい」で与えられたのが無限にスープの沸いてくる大鍋だったり。サバイバルに向かない能力もあったでしょうが、使い方次第(またはそれと気付いていない)だけかもしれない。

 本書では書き手の都合から1年A組のメンバーに焦点が当たっていますが、他のクラスでも多岐にわたる能力があって、様々な出来事があったのではと思います。

生還者のドキュメンタリー風に書かれた作風

 また本作では、1年A組に在籍している青木洋の姉が、洋とその友達から聞き出した内容をまとめたドキュメンタリーとして書かれています。映画などでは「モキュメンタリー(架空の人物や団体、虚構の事件や出来事に基づいて作られるドキュメンタリー風表現手法)」と呼ばれるものでしょうか。

 この高校が転移した事件は既に終わった話で、当事者の証言と第三者視点の俯瞰的な解説で構成されているところは、一人称や三人称と違う、淡々としているけど妙な臨場感のある内容になっていました。

 物語の途中で「後の○○である」みたいな未来のことが軽く書いてあったり、「もっと最善手があったのではないか」とか地の文に書いてあったりするとなんか急に現実に戻された感じがするほうなのですが、本作では最初からそのつもりで読んでいるからか、伏線としてむしろ気になるほどでした。

 さらに生徒達からのインタビューで構成されているからいろいろと感情も良く出てておいしい。そこまで話してるのかってところもなくはなかったけど、それを見ていたのはもしかすると後書きの前の謝辞にあるアレかな。アレ読んで最初から二度見したけど結局よくわからない…あのニチアサの犬くらいか…?

最後の条件

 卒業文集が願いの元になっているからなのか、教師たち大人はチート能力で活躍みたいな見せ場はありませんでした。特殊能力があるかさえわからない。

 でも全体を統率する役割であったり、移動しながらの青空教室だったりと、大人は大人としての役割を担っていて無駄に無能扱いされないところもリアリティに一役買っていたのかもしれない。

 特に序盤で「もう少し生徒達の能力を把握して上手く使えば」ってところはあるのですが、それは後からの感想だなって気持ちにもなります。

 一方で、生徒達にとってこの旅は(チート能力も含めた)自分たちの可能性の話でもあって、だから最後に提示された条件がものすごい意地の悪い、でも超えられないものでないと信じられるかどうかの試金石になっているようにも感じました。

 タタは魔法使いと呼ばれているけど、こちらでは伝承などにある「神」と呼んだ方がしっくりくるのはそうかもしれないですね。試練を与える強大な力を持った存在。だが完全に娯楽なところギリシャあたりの神と性質が近いのかもしれない。

 逆説的にはなりますが、この試練によって帰還後の生徒達の進路についてが裏付けられたところもあるだろうと、読後に「はじめに」を読み返すと思います。

 しかし最後の条件的に一番不憫だったの神谷さんですが…ええ…これからに幸あれ…

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